「AI推進室を作る」と決めたが、何から手をつけるか分からない
生成AIを本格的に業務へ取り入れるために、社内に専任のAI推進室を置こう。中堅企業の経営者やDX担当の方から、そう決めたものの何から整理すればいいか分からない、という相談を受けます。人を集めて部署の箱を用意しても、扱う業務と役割分担が曖昧なままでは、推進室は「便利そうなツールを試す集まり」で止まってしまいます。
背景には人材の問題もあります。総務省の情報通信白書でも、国内企業のデジタル人材の不足は繰り返し指摘されています。社内にAIに詳しい人がいないまま箱だけ先に作ると、「何をやる部署なのか」が定まらず、経営から見ても成果が見えにくくなります。
結論: 箱を作る前に「対象業務の棚卸し」と「入力・確認・責任の分担」を決める
先に組織図を描くより、推進室が最初の半年で扱う業務を数本に絞り、その業務について「誰が入力し、誰が確認し、誰が結果に責任を持つか」を決めるほうが先です。対象業務と分担が決まっていれば、担当者が1人でも外部パートナーと組んでも動き出せます。逆にここが曖昧だと、何人集めても止まります。
Tascaleは、繰り返し業務を「読む・判断する・入力する・共有する・報告する」の5つに分解して考えます。
この5分解は、推進室が扱う業務を選ぶときの物差しにもなります。「読む・入力する・共有する・報告する」はAIと自動化に寄せやすく、「判断する」は人が持つ。推進室の仕事は、業務ごとにこの線引きを決めて、人が判断と最終確認に集中できる形へ組み替えていくことだと考えると、やるべきことが具体的になります。
AI推進室が最初に扱うべき業務の見分け方
最初の対象は、次の条件に当てはまる業務から選びます。毎日発生し、複数のツールをまたぎ、手順がある程度決まっているものです。
- 問い合わせ・見積依頼メールを読んで、管理表やCRMへ入力する
- 商談や面談の記録を整理して、次のタスクとフォロー文面を作る
- 申請書やPDFの内容を管理表へ転記する
- 週報や会議資料のために、数字を集計して下書きを作る
- 対応状況をSlackや朝会で共有・報告する
逆に、判断の比重が大きい業務や、月に数回しか起きない業務は後回しでかまいません。推進室の最初の実績は「毎日の手作業が目に見えて減った」で作るのが、社内の納得を得やすいからです。業務の選び方の判断軸は、最初に選ぶべき業務と判断軸にまとめています。
設計例: 1つの業務を「入力 → AI処理 → 人の確認 → 既存ツール」に落とす
対象業務が決まったら、推進室はその業務を次の流れに設計し直します。見積依頼メールの処理を例にすると、こうなります。
メール受信 → AIが分類・項目抽出 → 管理表の更新案と返信下書きを作成 → 担当者が確認・修正 → 管理表・メール・Slackへ反映
- 1受信したメールをAIが読み、依頼種別と緊急度を分類する
- 2会社名・要件・希望納期など、後工程で使う項目だけを抽出する
- 3管理表の更新案と返信の下書きを作り、担当者に届ける
- 4担当者が内容を確認・修正し、送信と確定だけを行う
- 5結果が管理表とSlackに反映され、対応状況が共有される
このとき推進室が決めるのは、AIの精度そのものより「どの項目を抜き、どこで人が確認するか」です。月200件の見積依頼を担当3名で処理している会社を想定すると、1件あたり12分の読み取り・転記・下書きが4分前後まで下げられる試算で、月30時間分の作業に相当します。あくまで想定条件つきの目安ですが、推進室の初年度の狙いをこの粒度で置くと、投資判断がしやすくなります。
実装経験: 私が自社でまずやったのは、組織図より項目表の整理だった
私自身、自社の営業・マーケ・CRM運用にAIと自動化を組み込む前に、最初に手をつけたのは体制図ではなくCRMの項目整理でした。HubSpotのカスタムプロパティが168個まで増えていて、入力されない項目・使われない項目が大半を占めていたためです。これを22個まで減らし、「人が入力する項目」と「AI・自動化が埋める項目」を明確に分けました。この分離ができて初めて、どこを自動化し、どこに人の確認を残すかを設計できるようになりました。
項目を減らす基準は「その項目を見て、誰かの行動が変わるか」です。見ても行動が変わらない項目は、入力を求めるより消す。入力率が低いが必要な項目は、人に入力を求めるのでなくAIや自動化で埋める。推進室が最初にやるべき整理は、まさにこの「入力する項目と自動で埋める項目の仕分け」だと、自社の経験から感じています。組織を先に作っても、この項目表がないと分担のしようがありません。
体制の面では、自社では定期実行ジョブを31本、内製リポジトリを8本という規模まで運用しています。ここで学んだのは、本数を増やすことより「失敗したら気づける」ことのほうが重要だという点です。失敗通知・リトライ・冪等性を最初に決め、シークレット管理と権限も初期に固めました。推進室の体制設計でいえば、「動かす人」だけでなく「止まったときに気づいて直す人」を最初から決めておくことに当たります。ここを空けたまま自動化を増やすと、いずれ誰も全体を把握できなくなります。
注意点: 体制設計で外しやすい点
- 個人情報・機密情報の取り扱いルールを先に決めます。推進室が扱うデータには顧客情報が含まれるため、利用範囲のガイドラインを整えてから業務に乗せます。
- 「動かす人」と「確認する人」を分けます。設計した本人が確認まで兼ねると、誤判定に気づきにくくなります。
- 例外の受け皿を用意しておきます。「どれにも当てはまらない」案件は人のキューに落とし、例外まで自動化しようとしないことです。
- 止まったときに手動運用へ戻せる状態を保ちます。人の関与を残す考え方は、経済産業省・総務省が公表したAI事業者ガイドラインでも、AIを利用する事業者に求められる基本的な視点として示されています。
導入ステップ: 小さく始める順番
- 1推進室が最初の半年で扱う業務を1〜3本に絞る
- 2その業務の項目を棚卸しし、人が入力する項目と自動で埋める項目に仕分ける
- 3入力・確認・責任の担当を業務ごとに決める
- 41本を半自動化として設計し、少量データで精度と例外を確認する
- 5本番運用に乗せ、次の業務へ横展開しながら体制を広げる
よくある質問
Q. AI推進室には何人必要ですか?
人数より役割です。最初は「業務に詳しい担当者」1名と、設計・実装を担う外部パートナーの組み合わせでも始められます。専任チームを先に増やすより、対象業務を回しながら必要な役割を足していくほうが、成果と体制が噛み合います。
Q. 社内にAIエンジニアがいなくても立ち上げられますか?
立ち上げられます。AI人材を採用してから始めようとすると、募集と育成で時間がかかります。設計・実装は外部に任せ、社内は業務の理解と確認に集中する形なら、採用を待たずに最初の業務を動かせます。
Q. 推進室の成果はどう測ればいいですか?
最初は「対象業務にかかっていた作業時間の変化」で十分です。毎日発生する業務を選んでいれば、運用に乗った直後から時間の変化として見えます。全社のAI活用率のような大きな指標は、業務ごとの実績が積み上がってから追うのが現実的です。
まとめ: 箱より先に、業務と確認の設計を
AI推進室は、部署という箱を作ることがゴールではありません。動き出すのは、最初に扱う業務を絞り、項目を棚卸しして、入力・確認・責任の分担を決めたときです。Tascaleは外部AI推進室として、対象業務の選定から項目整理・設計・実装・本番運用後の改善までを月間支援枠の中で支援しています。社内に体制を持つ前段としても使えます。サービスの全体像はTascaleのサービス概要を、費用の考え方は料金プランをご覧ください。あわせて、配布だけで終わらせない組み込み方はChatGPTを全社導入しても業務改善が進まない理由も参考にしてください。